第16章 実用的なきもの知識

1604.お仕立て

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現在、きものの仕立てには、(1)国内仕立てと(2)海外仕立てがあります。また、国内の仕立てでも、(1-2)伝統的な手縫いと(1-2)ミシンによる仕立てがあり、中国やベトナムなどで行われている(2)海外仕立ては、その低価格が国内の和裁士には大きな打撃となっています。

左の小紋は、衿合わせの部分に柄がきています。
胸元が詰まった感じを持ちます。

アクセントを左肩の位置に持って行き、胸元はすっきり見せます。
※左図は、画像を加工しています。

左図は、塩沢絣の単衣のきものです。上前の柄の中心部が下を向いています。

日本人の和裁士でさえ、中々このようなきもの独特の繊細な感覚は持ち合わせていません。それを全く着物を着ない外国人に納得させることが可能でしょうか?

高額な大島、結城、塩沢、牛首紬など、海外縫製に任せる訳にはいきません。

昨今の仕立て上がりの浴衣(プレタ)に代表されるような既製品化は、和裁の賃金体系にも影響が出ています。特に、着物の事が良くわからない初心者や、普段あまり着物を着ることがない人にとっては、その低価格が購入要因となり、仕立ての良さや悪さについての評価は、あまり重要視されていないように感じます。

海外での仕立て料金は、着物にもよりますが、国内料金の約半値程度で市場で見られます。

縫製ミシンによる仕立ては、主に振袖、留袖、訪問着、喪服など比較的仕立て料金の高い礼装の着物に主力が置かれています。

縫製ミシンは、洋服用ほど操作が簡単なものではありません。縫う箇所によって、それぞれ機種を変更し、そのミシンの価格も数千万もする高額なものもあると聞いています。また、最近ハイテクミシンによる仕立てを良く耳にするようになりましたが、これは、和裁工程を15段階に分業し、流れ作業で行う仕立てのようです。いずれにしましても、価格は、手縫い価格の70%~80%程度に設定されているようです。今後ますますの技術革新が続き、省力化が進めば、難しい曲線縫いなども克服して行くでしょう。機械化による量産効果を期待し、袷の着物が数千円程度になればと思いますが、その道のりは厳しく相当な月日と開発費用がかかるはずです。

一方、海外での仕立ては、中国をはじめベトナムなどの労働力が低賃金な国で行われています。技術指導は日本人が行うわけですから、その品質も年々向上してきました。今では、見た目ではその違いはわからないレベルに達しているものもあります。日本独自の伝統文化である和裁を海外で行うことには賛否両論がありますが、国内の技術(和裁士)が壊滅する最悪の事態だけは避けたいものです。

国内仕立てを選ぶ理由

染匠(そめしょう)では、長襦袢から留袖に至るまで、ほとんどの着物を国内仕立てで対応しています。その理由は以下によるものです。

  1. スピードが大切。注文から納品まで1~2ヶ月もかかる海外仕立てでは、日常的に着物を着る常連客には馴染めない。
  2. 着物は、一度仕立てたものを終生着るというものでは有りません。サイズを変えたり、洗い張りしたり、染め替えたりします。気に入った着物なら、前後裏表をやり変えて徹底的に着つぶします。
  3. 常連客は、和裁士を変えると着心地が変わり、クレームが発生します。
  4. 仕立ての修復は、日常的に行われるものです。裏表のそぐいの直し、裾の修復、衿の掛けかえなど、着れば着るほど、和裁士のお世話になる確率は高くなるものです。少しの修復でも、その都度海外に輸送し、詳細についてやり取りするには手間とコストががかかります。
  5. S、M、L、LLサイズのような既製服化は、趣向性の高い着物には向かないと思います。同じ柄の着物と帯のセットが売れないように、着物のサイズも自分固有の体型に合わせた究極のオーダーメイドを追求できるところに、その魅力があるのではないでしょうか。
  6. 絵羽物(振袖・留袖・訪問着)は、あらかじめ柄の配置が決まっていますので、原則的には柄合せが必要ではありませんが、浴衣、小紋、紬など、おしゃれ物には、デリケートな感性が必要です。仕立てをする人に着物心が無く、柄袷で失敗すると、せっかくの着物が台無しになることさえ有ります。縫い賃の安いおしゃれ物の方が柄合せで時間がかかり、難しいとさえ言われています。きものを着ることが無い外国人に、このセンスを期待するには、あまりにもリスクが高いと考えます。
  7. 決定的な理由は、普段きものを着ている着付け講師が納得しないからです。相手によっては、めったに着ないのだから問題にはならないし、それより安い方が良い。そういう意見もあるでしょうが、それ以上に着物の良さ(本物)をわかって欲しいのだと思います。
  8. 下の写真は、一級和裁士が手がけた江戸小紋です。滑らかな曲線でシワの無い衿回りの見事さは、着物を着る人なら直ぐにわかります。(資料:川西大和教室)

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