第9章 お手入れ

905.シミ抜き・地直し

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シミ抜き

シミ抜きを自分でする方法についてアドバイスするには、あまりにもリスクがあります。私ども社員のあいだでさえ、自分で処理できる人はありません。シミの種類、生地の種類、染料の種類によって、さまざまな処理の方法があるからです。

もちろんここで取り上げている素材は絹のことですが、ポリエステル、浴衣、ウールについては、洋服と同じ感覚で良いと思います。

絹については、ひと口にベンジンでたたいて取る!とはとても言い切れないのです。やはり専門家の手にゆだねるのが一番安全だと思います。最も注意すべきことは、生地をコスリ、生地自体を傷めてしまうと、スレが出て再生不能になります。少しくらいならと思ってもデリケートな縮緬などはとても危険です。

社員の間でも、最も有効な対処方法は、着物と帯にはガード加工をしておくことです。そうすれば、お醤油やコーヒーなどの汚れは付きません。それでもファンデーションなどの衿汚れが付いたときは、ガーゼなどをぬらし、固く絞ったあと、軽くトントンとたたいて取る程度です。絶対にそれ以上の手を加えないことです。素人が手を付け、どうにもならなくなってプロのシミ抜きに出され、かえって高額な料金を請求されることが以外に多いからです。

めったに着ない着物は、着たあとで、日光や蛍光灯の直射の当たらない所で2~3日ハンガーにつるして陰干しをします。よく汚れる所は、(1)衿、(2)上前、(3)袖口、 (4)身八ツ口、(5)後身頃の後跳ね等です。当日は見えない汗なども、乾燥すると見えてきます。めったに着ない人は、きれいにして保管するのが一番の安上がりです。小紋や紬などのお洒落着を良く着る人は、ワンシーズンを通して着ます。そして衣替えのときに、丸洗いに出してまとめてきれいにします。

丸洗いを2~3回したら、今度は洗い張り(伸子張り)をします。どんなに上手に仕立てられた着物でも、丸洗いを繰り返すと表裏のソグイ(つりあい)が悪くなります。丸洗い後の仕上げ加工(表裏の直し)も3回が限界です。以後は、仕立て直しをします。元来絹は、水を通して伸子張りをすると、生地に張りが出て再生され、新品のような感触が戻るからです。

シミ抜きの料金ですが、百円硬貨ほどのシミなら3000円~5000円はかかります。「小さいシミだから安い」と言うものでもありません。要は、職人の手間賃ですから時間がかかれば、それだけ高いということになります。

めったに着ない訪問着や留袖などの礼装着は、ガード加工がされていなければ、その都度きれいに手入れが必要です。また、小紋や紬などは、衣替えに合わせて、丸洗いと染み抜きを併用して行います。良心的なお店では、見積もりを査定してから行う所もあります。近年シミ抜きの技術が進歩し、古いシミでもきれいに取れるようになりました。ここだけの話、少しくらいシミがあっても気にしないで着て下さい。誰にもシミなど見えないのが本音です。そして、まとめてきれいにしましょう。

※最後に、みなさまにお願いがございます。

「高い着物を買ってやったのだから、シミ抜きくらい取りに来て、持って来い!」と良く言われます。立場上、文句は言えません。しかしながら、配達員に用する時間給を考えていただきたいのです。やはり、車で往復するとなるといくら安く見積もっても2000~3000円は経費がかかります。その分、本当に無料で奉仕するだけ余力のある呉服屋さんを私は知りません。お安い店なら、セルフサービスが原則です。ご理解を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

ご質問などございましたら、お気軽にご相談下さい。

地直し

どうしても落ちないシミ等は、地直しと言われる方法で修復します。シミの部分を完全に脱色して白地に戻します。そして、新たに周囲の色目を合わせ、色挿し(いろざし)をします。友禅職人でさえ、自作の着物に色飛びなど、不可抗力の染みをつける事はあるのです。その際、地直しの専門家にお願いをすることがあります。地直しは、色合わせの名人で、永年の経験が必要とされます。色の調合もさることながら、挿す生地の種類によって発色が微妙に違うのです。その日の温度、湿度など天候にも左右される、とてもデリケートな仕事です。派手さの無い職人技に業界関係者の多くが尊敬の念を抱いています。訪問着や留袖など無地場の多い着物を修復するには、無くてはならない技術と言えます。

「知らないと後悔する着付け教室の話」が集英社に取材されました

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